アナログ写真ショップSilversalt店主のティム・モーグ氏の最近の悩みは、カメラのシャッタースピードや絞りの値でフィルム現像を相談されることがあり、そのたびに返事に困ることだそうです。なぜティムが返事に困るのかというと、基本的にシャッタースピードや絞りはフィルム現像に関係しないからです。

…と、簡単にブログ記事を書こうと思ったのですが、簡単に見えて意外とややこしく、この子たち一筋縄でいかない関係だった、というのが今回のお話です。

  

ややこしい話をシンプルにするには

写真を一言でいうと…写真は画です。だから、画に影響する部分を整理してみたいと思います。

アナログ写真は、ややこしくしようするといくらでもややこしくできますが、画に無関係な部分にはこだわらずシンプルに考えれば、すっきりさせることができます。

 

そもそもフィルム現像って何やってるの?

どストレートな質問キタコレ。

フィルム現像は、光があたったところを黒くします。

もう少し詳しく言うと、

フィルムの乳剤面に光が当たると目に見えない変化が起きます。その変化の度合いに応じて、目に見えるように黒くする化学反応がフィルム現像です。

私たちの写真にとって大事なことは、光が当たったフィルムをどの程度黒くするかということになります。

そこで、わたしたちに必要なデータは、つぎのふたつになります。

  1. フィルムにどれだけ光があたったか。
  2. フィルムを現像するとどれだけ黒くなるか。

です。後ろから見ていきましょう。

 

現像するとどれだけ黒くなるか=フィルム感度

「フィルムを現像するとどれだけ黒くなるか」を示すのは「フィルム感度」です。

フィルム感度というと、フィルムの箱に書いてある感度だと思われがちですが、そういうわけでもありません。

なぜなら、フィルム現像は化学反応です。反応させる薬品が変わると、反応の結果も変わります。つまり使用する現像液との組み合わせによってフィルムの感度は変わる場合があります。

ですからほんとうのフィルム感度を知るには、フィルムと現像液の組み合わせで調べる必要があります。つまりフィルム感度とは言うものの、フィルム単体の感度というものはなくて、実際は「フィルムと現像液の組み合わせの感度」だと言えます。

メーカーや販売店が公表している「公式データ」でも、実際とは大きく異なる場合があります。理想は自分でテストすることですが、信頼できる情報ソースとしてSilversaltの現像データはおすすめできます。

ところでフィルム感度が必要なのはいつでしょうか?そう、露出を決めるときです。ということは、撮影で露出を決める時点で、使用するフィルム現像液が決まっていないと正確な露出は決められないということです。

 

フィルムにどれだけ光があたったか=露光量

フィルムにどれだけ光が当たったかを表すのは「露光量」です。

露光量を知るには露出計で計測します。もちろんカメラの内蔵露出計も使えます。

露出計で測るだけなら簡単じゃんと思われるかもしれませんが、これもそう簡単な話ではないんです。

というのは、私たちが撮影する対象は、灰色の壁のような均一のモチーフではなく明暗の差がある場合がほとんどです。ということは、撮影対象の暗い部分と明るい部分ではフィルムに光が当たる量が異なります。

そのため、ある程度正確に露光量を知るためには、画面内を明るさのエリアごとに分けて、それぞれのエリアの光の量を測る必要があります。(そのための方法がゾーンシステムです。)

露出ってなに?露出ってなに?ほんとうにそうですよ。なに?露出って。キタコレ。初めてのアナログ写真。今回は「露出」についてです。 フィルムに光を当てるフィルムに光を当てると写真が写ります。これを露出、あるいは露光と言います。それだけなら話は簡単なのですが、問題は光の量の調整です。肉眼でものを見るのに比べて、銀塩アナログ写真は驚くほど少しの明暗の幅しか写すことができません。フィルムに当てる光の量が多すぎると白くつぶれてしまい、少ないと何も写りません。デジタル写真にないアナログならではの美しい写真...

 

フィルム感度と露光量がわかればパーフェクト?

いや実はフィルムの感度も、明るさのエリアによって変化します。暗い部分と明るい部分ではフィルムの感度が異なる場合があります。というか、ほとんどの場合がそうです。シャドウ部からハイライト部まで、工業規格で定められた通りのフィルム感度であることはほぼありません。

実際のフィルム感度(コントラスト)を完全に知るためにはセンシトメトリーテストを行う必要があります。そこまでやれば、パーフェクトです。

 

フィルム現像に関係するデータの発表!

写真の画をコントロールしようとすると、それなりに正確にデータを調べる必要があります。しかし、いちど話を戻してプロセスを大づかみにすると、フィルム現像に必要な撮影データは、まずフィルム感度です。

フィルムの実際の感度は現像液との組み合わせで決まります。(パッケージに記載されている感度にならない場合があります。)

  • フィルム
  • フィルム現像液

フィルム感度は露出決定に必要なので、撮影の前には現像液が決まっていることが理想です。

次に必要なデータは露光量です。露光量は次の組み合わせで決まります。

  • 被写体の明るさ
  • レンズの絞り
  • シャッタースピード

露光量はこの3つのパラメーターの組み合わせで決まるため、そのうちの2つだけわかっても露光量はわかりません。ですから、ひとまずはフィルム現像の結果にシャッタースピードと絞りのデータは関係ないと言えます。

シャッタースピードと絞りは、ほんとうにフィルム現像の結果に関係しないのか?

 

最初に「フィルム現像は、光があたったところを黒くします」と書きましたが、実はフィルム現像には他にもとても重要な働きがあります。それは画をかっこよくするエフェクトをかけるということです。

アナログ写真は味わいがあると言われることがありますが、味わいと言っても漠然としたものとは限りません。プロの料理人にとっては「味」は、きっちりシビアに狙いすましてコントロールした結果です。

アナログ写真の重要な「味」コントロールのポイントはフィルム現像です。フィルム現像では画の重要なトーンが決まるからです。

非常に狙った画を作りたいときは、シャッタースピードや絞りに合わせてフィルム現像を調整することもあります。あるいはフィルム現像に合わせてシャッタースピードや絞りを調整する場合もあるかもしれません。

これは撮影レンズの描写、現像液のキャラクター、フィルムの特性、そして作品の方向性などをシビアに吟味したときに自然と決まってくるものです。このレベルでコントロールして写真を作るときには、手ブレ量や被写界深度などもフィルム現像の結果に関わってきます。つまり、シャッタースピードと絞りもフィルム現像の際に考慮することになります。

(フィルム現像のエフェクトのコントロールは、東京オルタナ写真部のアドバンストクラスで詳しく解説しています。)

しかしこれはもちろん、それなりに特殊な場合であって、まずはフィルム現像に関係するのは、フィルム感度と露光量ということになります。撮影時のシャッタースピードや絞りは、ふつうは考慮しなくて大丈夫です。

東京オルタナ写真部 アナログ写真ワークショップ

 

かっこいい写真の撮影手順

かっこいい写真を効率よくコントロールするための準備はこんな感じになります。

  1. フィルムを決定。
  2. フィルム現像液を決定。
  3. フィルムの実際の感度を調べる。→Silversaltのサイトでチェック
  4. 撮影。(実際の感度を基準に露出決定)
  5. フィルム現像

なるほど、シンプルですね!

とはいえ、気になるのは露出の決め方です。露出はまともに画に影響あります。どうすれば効率よく、かっこいい写真の露出が決められるのか…。それはまた別の機会に。


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東京パイロについてより詳しい解説は次のページ「オリジナルフィルム現像液 |東京パイロ TOKYO PYRO」をご覧ください。

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