アート写真のシーンを作るには:ギャラリー Art of Foto ロシア・サンクトペテルブルク-3

Art of Foto

ロシア・サンクトペテルブルクにある写真専門ギャラリーArt of Fotoの紹介、第3回です。

 

 

第1回はギャラリーとしてどのように展示企画を行っているかについて、第2回はロシアのアナログ写真文化の現状とそれに関するArt of Fotoの活動について聞きました。

Art of Foto設立の最初の動機は、写真家である自分たちの作品を展示できる場所がない、ということでした。

しかしギャラリーを設立した彼らは、他の優れた作家の紹介を積極的に行ない、さらに制作設備の提供もしています。また、自らアナログ写真技法を研究し、アート写真コミュニティにフィードバックしています。ロシアのアート写真の水準を引き上げようとする、彼らの目的と行動をここまで見てきました。

 

Art of Foto

 

そのようにして制作された写真作品をギャラリーはどう取り扱うのでしょうか。そしてロシアでは一般の人々は作品に対してどのように接するのでしょう。第3回目では、ロシアのアート市場とギャラリーの課題について聞きました。

 

 

 

 

ギャラリーインタビュー Art of Foto サンクトペテルブルク -その3

 

Art of Fotoの創設者のひとりでありアートディレクターを務めるアントン・イワノフ氏に話をうかがいます。
  

Art of Foto 創設者のふたり、ユーリーとアントン

 
 

ロシアのアート写真マーケットの現状

 
── Art of Fotoの作品販売について伺います。作品は売れていますか?
 

アントン:売れていますよ。国外からのコレクターも訪れます。事情がわかっているコレクターとの会話は楽ですね。彼らは何が欲しいか明確で、価格の感覚もすでに持っている。一方、作品購入経験のない購入希望者との会話は少々難儀することがあります。価格の話になると、なぜそんなに高いのか、と聞かれることもしばしばです。価格がなぜこのような設定なのかを最初から説明する必要がでてきます。

これはロシアのマーケット特有の状況ではないでしょうか。ヨーロッパでは状況が異なると思います。例えばパリではギャラリーがたくさんありコレクターも多くいるため、作品購入や価格についての共通認識があるでしょう。購入希望者が作品購入についての知識や経験を全く持ち合わせていないという今のロシアのような状況は、あまりないのではないかと思います。

Art of Fotoはサンクトペテルブルクでアート写真作品が購入できるほぼ唯一の写真専門ギャラリーだと言えます。写真専門ギャラリーは他にも2つ程度ありますが、500万人都市にしてはとても少ない。現代アートのギャラリーは他にもありそこで写真作品を取り扱うこともありますが、それらは写真専門ギャラリーではありません。

 

Art of Foto


  

ロシアにおけるギャラリーの課題

 
アントン:昨年、モスクワフォトサロンというイベントにギャラリーとして参加しました(註:モスクワフォトサロンは、モスクワで毎年開催されている写真専門のアートフェアー。ロシアのギャラリーが参加し、様々な展示企画や作品販売のための出店が行われている)。

ロシア全土で現在20程度の写真専門ギャラリーがあるかと思うのですが、そのうち全てが参加したわけではありませんでした。

参加しなかったギャラリーの主な理由は、彼らの顧客が他のギャラリーに流れてしまうのを恐れたからです。しかし、顧客を特定のギャラリーに縛り付けようとする姿勢は意味がないし、ギャラリーとしても結果的に成功しないと思います。ギャラリーとして今の重要な課題は、私達が共にロシア全体のアート写真マーケットの発展に貢献することです。

ロシアがアート写真マーケットとしてより成熟していくためには、ロシアでのギャラリー数がもっと増える必要があります。そうすれば、ギャラリーで作品を購入することがより一般的になり、作品購入への理解が深まるでしょう。作品を大切に自宅で飾って眺めたり、大切な人へ贈ったりしているのを見れば、自分も作品を購入したいと思う人々はより増えると思います。

現状は、ロシアのマーケットはまだ未成熟であると言えます。そのような状況で、私達は自分たちができることを可能な限りやろうとしています。

もちろん価格の問題はあります。とても高価な作品だと一般の人が購入することが難しくなってしまう。しかし私達のギャラリーでは、リーズナブルな値段で良い作品を購入することができると思います。

 

 

展示して終わりにしない

 
── 日本でも作品を購入する人はヨーロッパやアメリカに比べると非常に少ないと思います。そのような状況のためか、日本でのギャラリーの運営形態は「レンタルギャラリー」がとても多いのが実情です。何人かの作家があつまりグループ展などを企画し、ギャラリーをレンタルして展覧会を行うというケースがよくあります。

私自身も何度かこのような展覧会に参加しましたが、展示して多くの人が足を運んでくれたのでよかったと、それだけで終わってしまうことがありました。やがて、それで良いのかと自分で問題意識を持つようになりました。
 

アントン:ロシアでも別のギャラリーでそのようなことがあります。私が知っている具体例としては、ギャラリー側が作家から出展料をとってそれで終了、その後の作家のフォローや展示内容のコミュニケーションがないというようなことですね。私達は会場レンタルはやらないし、自分達で展示する意味があると思うものを企画し展示しているので、そのようなことは起こりません。

 

── Art of Fotoの活動は成功してるように思います。アナログ写真文化の普及という意味ではすでに多くの結果が出ているように思います。先日のプリントエクスチェンジも多くの人が参加していました。

アントン:そうですね。手応えは感じています。Art of Fotoのことはロシア国内だけでなくて国外にも知られるようになってきていますし。展示は常に来場者がいますし、作品購入も安定しています。もちろんさらに多くの人に来場して欲しいと思ってはいますが。

 

 
Art of Fotoで開催されるアート写真のチャリティ・オークション
«Фотографии, меняющие жизнь»(人生を変える写真)

オークションの収益は、ペテルブルクのがん患者支援組織AdVITAに寄付される

 
 

今後の課題と使命

  
── ギャラリーの来場者について、何か気になることはありますか?

アントン:今のところ特にはありませんが、より大きな場所が欲しいです。今は展示会場が一つだけですので。2つの展示を同時に行いたいのですが、ここは街の中心地なので賃料もとても高いのでね(笑)。来場者については何か問題を感じたことはありません。以前より多くの来場者に足を運んでもらってると思います。もちろん、展示内容が気に入らなかったと言われたことはあります。それ以外に、何か問題視するようなことは起きていません。

 

── 今後の活動についてどのようなヴィジョンを持っていますか。

アントン:もっと国外に出ていきたいですね。まずヨーロッパです。国際フェスティバルにも参加したいと思っていますし、国外で特定の作家の展覧会の開催や販売をやりたいと思います。ヨーロッパはもちろんですが、アジアにも興味があります。知人のロシア人キュレーターでアジア諸国で活躍している人がいます。東京のギャラリーでもこのキュレターによる展覧会を昨年行ったのですが、彼はタイや韓国でも活動しています。ロシア人作家の展示を企画するだけでなく、国外の作家のロシアでの展示も企画しています。私達はまだ、アジアでのアート写真の嗜好傾向がまだよくわかっていません。アメリカやヨーロッパの傾向はある程度把握できていますが。

いずれにしても、私達としては、国外の作家の作品をロシアで紹介することと、ロシア人作家を国外で紹介することの両方行っていきたいと思っています。その中でも、特に、まだ作家経験の浅いロシアの作家を国内外で紹介していきたいですね。

ギャラリーオープン当初はやることが本当にたくさんありました。ギャラリーの内装さえ自分たちでやってたんです(笑)今は活動が全体的に安定しているので、ギャラリーとしてロシアの作家のPRをより精力的に行っていきたいと思います。

この5年でロシアの作家たちの技術レベルも上がりました。先ほど話した現像、プリントのレベルですね。今はヨーロッパやアメリカで見せても恥ずかしくないレベルだと思います。

 

オープニング準備中のArt of Foto

 

── 私はこれまで、アートに関する明確な動機については深く考えることがなかったように思います。自分が展示に参加するときは、なんとなく良いものができたので見て欲しい、という漠然とした動機でした。しかしロシアであなた方や他の作家の方と知り合って話をすると、各人それぞれが明確な問題意識を持ち、それに取り組むことを動機に活動していると感じます。
 

 アントン:ロシアでもモスクワとサンクトペテルブルクでは状況が異なると思います。東京と同じく大都市のモスクワではアートをただのビジネスだと考えている人々が少なからずいます。そのようなギャラリーが興味を持っているのは、販売できるかどうかということと、出展料を得ることだけです。作品や作家の精査もせず、どのような作品を展示するかを十分検討することや明確な方針を持っていません。あなたのいうアートに関する明確な「動機」を持っていないということですね。

でもロシアでギャラリーがあるのはモスクワやペテルブルクだけではありません。小さなロシアの地方都市にも最近はギャラリーが新しく開設されています。極東のサハリンにもギャラリーが新しくできて、私たちとどのように協業できるか相談していますので、これからが楽しみです。

 

 
Art of Foto内部 Googleストリートビュー

 

作品とカメラ

 
── あなたは作家としても活動していますね。それについて少し聞かせてください。大判カメラが主力ですか?
 

アントン:中判カメラも35ミリを使います。でも大判カメラがメインです。自分の作品は大判カメラで撮影する必要があると思っています。大判フィルムを用いる制作には、自分が必要とするフレキシビリティがあります。その後の現像、プリントの過程においても私自身の作家性が出せると思っています。

  

 
写真家であり登山家でもあるアントンを紹介するILFORDのビデオ MyFilmStory

 

── 日本ではカメラの機種やフォーマットを限定して展示する展覧会も時々見かけます。
 

アントン:うーん(笑)個人的には、重要なのは作品を見ることで、問題はカメラではないと思っているおですが。。。今ちょうどパキスタンの山岳地帯を撮影した私と知人の作品展がモスクワで行われているのですが、大判、中判、35ミリあらゆるサイズが使用されています。来場者のほとんどは何のカメラで撮ったものかはあまり関心がありません。もちろん、カメラの選択には撮影状況やフォーマットの特性を考慮する必要がありますが、まずはどのような作品を作るのか、その作品に必要なサイズはどれか、ということが優先されるべきだと思いますね。
 

── とても興味深かったです。どうもありがとうございました。

 

 

 

Art of Foto インタビューを終えて

 

アナログ写真技法を制作に用いるのはなぜか。
ギャラリー活動を支えている動機は何か。

彼らにとってその答えは非常に明確であることが、インタビューを通じて知ることができました。

まずアントンとユーリーは作家として、自身の作品にアナログ写真技術を用いなければならない理由をはっきりと持っています。それが自身の作品にとって最良の結果を出せる技法だからです。

そして、ギャラリー設立後は、ロシアのアナログ写真文化の水準を引きあげることを目指した活動を続けています。

高い技術力に支えられたアート作品を一般の人が日常的に購入するようになってほしいという思いも強く、ロシアのアート写真マーケットへの貢献も彼らの活動の動機になっています。

彼らの行動の背景には、ロシアのアート写真に関する現状への強い問題意識があります。
 

  • 作家が自身の作品を発表できるギャラリーがない
  • ロシアは欧米に比べて、アートとしてのアナログ写真技術の水準が低い
  • 低い技術水準のまま、技法に対する正確な理解を持たない作家や愛好家の間でアナログ写真作品が制作されてきている
  • アート作品の購入者はロシアではいまだ少なく、作品購入に対する理解や経験を持つ人がまだあまりいない

 
彼らはこのような問題意識からスタートし、現状を変えていく活動をすることが彼らの使命であると考えています。彼らはアート活動の根底に、強い社会的な動機を持っているとも言えると思います。

 

Art of Foto

 

アートとは何か

 

なぜ作品を作るのか。なぜそのように作るのか。
作品を見る時も、自分が制作するときも、もっとこの動機について考えるべきではないか?

 

この記事の冒頭に掲げたテーマです。

 
日本では、アートは「個人的な内面を表現するもの」と考える傾向があるかもしれません。

または、ソ連時代に見られたような、社会的イデオロギーがアートの目的になり、それに基づいて作品が制作され評価される時代もありました。

さらに、アートはビジネスだとされることもあります。大きな展覧会では内容よりも集客が喧伝されます。投機的なアート作品購入を審美眼と区別しないひともいます。またアートをビジネスパーソンの実務的教養だと捉える人もいます。

 

アートとは本当にそういうものなのだろうか?

 

これが私がこのインタビューシリーズを始めようと思った強い動機です。

今回のアントンのインタビューで語られたものは、そのうちのどれにもあてはまりません。彼らのアートにまつわる活動は、文化に寄与しこの世界がより良くなるように、という視点から離れることなく企画され行われていると思います。

今回のインタビューで得られたこの視点は、これまで「アートはこういうものだ」と語られてきたものではない可能性を探るための、非常に重要なヒントになりうるのではないかと思います。

  

アートを支える動機とは

 
作家やギャラリーなどアートの担い手により、動機は様々だと思います。しかし内容が異なったとしても、今回アントンやユーリーに見たような、本人たちにとって切実なものこそが、彼らのアートを支える根幹となっているのだと思います。

アートを支える動機とはどのようなものか──
この問いをさらに探るために、近日中にまたアートの担い手にインタビューと取材を行って行きたいと思います。

この問いの探求はこれからも続きます。

 

 

Art of Foto
Art of Foto

ウェブサイト:artoffoto.com
住所:Bolshaya Konyushennaya St, 1, St Petersburg, 191186
電話:+7 (812) 312-28-56
Wed-Sun 12:00 – 20:00 入場無料

 
Art of Fotoはアントン・イワノフ氏とユーリー・オプリャ氏を中心とした若手写真家によって創立されたアート写真専門ギャラリーです。ロシア国内のみではなく、ヨーロッパからも注目されるギャラリーとして高く評価されています。

 


 

Art of Foto インタビューシリーズ

第1回

 

第2回