ロシア・サンクトペテルブルクにある写真専門ギャラリーArt of Fotoを創設し運営しているのは、自分たちも作家である若手写真家たちです。ヨーロッパでも評価されるギャラリーとして軌道に乗せることに成功した彼らにインタビューしました。
自己紹介
私(Yukiko Ogawa)は東京オルタナ写真部と Silversalt|シルバーソルトのワークショップに参加したことをきっかけに写真作品の制作を始めました。そこから美術や美術史にも関心を持つようになり、大学の社会人課程で美術を学んでいます。現在は、アートの背後にある「動機」について関心を持っています。
このシリーズをはじめるにあたって
Art of Fotoの紹介の前に、私がこの「アートの動機」という関心を持つにいたった経緯を説明しておきたいと思います。
「好き嫌い」から先へ
私はこれまで東京にいて、自分の作品をつくり、作品展に参加してきました。しかし次第に違和感を感じるようになりました。
写真を始めた最初の頃は、友人や知人に見せて「いいね!」と言ってもらうのがとても嬉しく、その後は、グループ展に参加して展示が盛り上がることを楽しんだりしました。しかしそれがほんとうに自分の目的だろうか、と考えるようになりました。結局、SNSで「いいね!」をし合っているだけと同じなのではないか?「いいね!」だけを得ることに何の意味があるのだろうか?
「写真や絵画を見てただ好き嫌いを言うだけで終わることから先へ行きたい」
次第にこの思いが強くなり、大学で美術を学び始めました。すると、美術を見るとはどういうことかが一気に開かれて、まさに世界が眩しく明るくなりました。そして絵画や写真のひとつひとつの作品を言葉で分析していくうちに、作者にはそれをそのように作る明確な動機が必ずあることに気づきました。
当たり前のように聞こえますが、はたして自分にはそのような動機があっただろうか?
なぜ作品を作るのか。なぜそのように作るのか。作品を見る時も、自分が制作するときも、もっとこの動機について考えるべきではないか?そんなふうに考えだしました。
アートに関わる動機
やがて、アートに関わる人々がどのような動機を持っているのかについて、関心を抱くようになりました。
私は現在おもにロシアに居住しており、そのような関心を持ってここで出会った作家たちと話していると、彼らからまさにこの動機を強く感じることがあります。彼らは様々な問題意識や明確な動機を持って活動しています。私がこれまで経験し知っていたアートや写真のシーンとは少し様子が異なる印象を受け始めました。そしてこの強い動機は、作家に限らずアートに関わる人々からも感じられます。
そこで、アート、写真、ギャラリーなどに関わる人たちにインタビューをしながら、彼らがどんなことを考え活動しているのか、探っていくシリーズを始めたいと思います。それにより、アートを支える動機は何か、「アート」とは何か、を改めて考えていきたいと思います。
ギャラリーインタビュー Art of Foto サンクトペテルブルク -その1
写真専門ギャラリー Art of Foto
まず1回目の今回は、ロシア・サンクトペテルブルクにある写真専門ギャラリー Art of Foto にインタビューをしてきました。
Art of Foto
ウェブサイト:artoffoto.com
住所:Bolshaya Konyushennaya St, 1, St Petersburg, 191186
電話:+7 (812) 312-28-56
Wed-Sun 12:00 – 20:00 入場無料
このギャラリーはまだ30代の若い作家たちが共同で設立したギャラリーです。ギャラリーはペテルブルクの中心地にあり、とてもモダンで広々としています。
ギャラリーの創設者の一人であり、アートディレクターを務めるアントン・イワノフ氏に話を伺いました。アントンは自身も写真作品で国内外の展示に参加する作家です。ペテルブルクに出向くたびに訪れて色々と会話をするので、今回のインタビューも快諾してくれました。
Art of Fotoについて
── ギャラリーはいつ創設されたのですか?
アントン:2015年からです。しかしその数年前からすでにユーリー(註:ギャラリーの創設メンバーで自身も写真家のユーリー・オプリャ氏)とこのような活動を行っていました。自宅に暗室を作ったり、展示会をおこなったり、海外に作品を持ち込んだり。
しかし、作家活動するためのコミュニティは作れたのですが、自分たちの作品を展示できる場所がなかったのです。そこでこのような展示スペース、写真暗室、額装工房を備えた場所を創設しました。
── 展示はどれくらいの期間で企画されているのですか?
アントン:展示は2ヶ月に1回、または毎月1回の頻度で更新して行っています。
ギャラリーのレンタルはやっていません。
── 展示会場をレンタル貸しすることはしていないと伺いましたが。
アントン:そうですね。一度もやったことありません。そのような問い合わせはありますけど。展示の際には、才能ある人や良い作品を見つけるように努めています。
── どのようにして作家や作品を見つけるのですか?
アントン:設立当初から何人か展示をしたいと思っていた才能のある作家がいました。ソ連時代にここがレニングラードだった頃から作家クラブがありましたし、海外の作家でも紹介したい作家がいました。
その後はこの場所が有名になってきたので、作家の方からポートフォリオの持ち込みや展示依頼がくるようになりました。
良い作品、優れた作家とは?
── 展示に際して良い作品や才能ある作家を選ぶ、というのはどのような意味でしょうか。私はこれまでの経験上、展示の企画の際には、主催者や指導者の個人的な好みが強く反映されることも多々あるように感じています。
アントン:それは正しくないと思います。もちろん私たちにも個人的好みはありますけれど、そこからは離れて企画するようにしています。
古典的な銀塩写真もありますし、オルタナティブブプロセスもある。ドキュメンタリー作品やコンテンポラリーの作品の展示も企画しています。個人的な好みとは関係なく、作品をアートとして全体的に評価できるようにしています。
そうは言っても、作品が社会的にどのように評価されるかという問題もありますね。私たちがとても評価しても、それを見る人々が評価するとは限らない。しかしその作品がこれまでになかったものの場合、アートに新しい境地が開けるのですから、一般的な評価に関わらず展示する必要があると考えています。
展示の企画も今は余裕が出てきましたね。ギャラリーを立ち上げたばかりのころは、理想的な展示になってほしいと躍起になってましたけど。これまでにすでに45回の企画展を開催しました。
(インタビューはその2へ続きます。)
ロシア人のアーティスト達からよく聞くのは、作品を発表できるギャラリーがとにかくロシアには少ない、ということです。アントンとユーリーも活動拠点となる場所がないので、自分たちで作ってしまおう、というのがそもそものギャラリー設立の動機でした。
しかし彼らはただギャラリーを作っただけではありませんでした。制作環境を作家に提供すること。作家のプロモーション活動に協力すること。ロシアの写真文化全体を向上させること。これらの目的がArt of Fotoの設立の最初からあったことが、アントンへのインタビューからうかがえました。
Art of Foto |Instagram
アントンとユーリーはそれぞれ作家として追求しているテーマがあります。しかし、展示企画のキュレーションは、個人的な好みとは切り離すように努めているとのこと。またスペースをレンタルをしないということは、収益を作品販売から得る必要があります。それにも関わらず、ただマーケットで受けそうな作品を選ぶのではなく、この作品を展示する意味は何かと常に検討しながら企画する姿勢を貫いています。
私はペテルブルクに行くたびにArt of Fotoを訪れますが、展示作品の多様さを実際に感じることができます。今回はどのような作品に出会えるだろうか?なぜこれが展示されているのだろう?と、毎回、知的な興味をそそられる企画に出会えます。
Art of Fotoインタビュー、次回は、ロシアにおけるアナログ写真文化の現状についてのお話です。
Art of Foto インタビューシリーズ
第2回
第3回
私が作品やアートについて考えたことは以前別の記事にも書きました。関心を持たれた方はそちらもぜひ読んでみてください。