「時間」を決める作業
暗室の作業はつまるところ何をしているのかというと、それはグレーの「濃さ」を決めていく作業だと言えます。画面全体の濃さ、画面内のエリアの濃さ。そしてそのプリントの濃さは印画紙への露光時間で決まります。つまり暗室作業とは時間を決める作業なのです。
そのために引き伸ばし機には精密なタイマーがついています。しかし最初は当てずっぽうで始めるしかない。引き伸ばし機にネガをセットしたら、勘で適当に露光時間を決めて、テストプリントを作ります。そしてそれを現像して観察して、プリントが最も美しくなる露光時間を探っていく。そうやって基本となる画面全体の時間が決まれば、次は画面内の各エリアの露光時間を調整していく。
このやり方だと慣れていても、基本の露光時間を求めるのに30分はかかります。それを30秒で終わらせるすごい機材がこれ。ハイランド スプリットグレード Heiland Splitgrade
これがあれば、時間と体力とコストをクリエイティブのために集中させることができます。
だがしかし、今日はこれを紹介したいわけではないのです。「暗室作業とは時間を決める作業のことだ。」今日の問題はこれです。これ。
時間を計る
もちろん引き伸ばし機のタイマーをテストプリントのために使うことはできます。普通の写真指導で教えられているのは3秒など適当な秒数をセットして、印画紙を黒紙などで隠し、スライドしながら3秒、6秒、9秒、12秒…と段階露光する方法です。しかし率直に言ってこのやり方はナンセンスです。なぜなら3秒と6秒では光量の差は2倍ですが、24秒と27秒では1/6倍の差しかありません(24×6√2=26.93)。つまりこれでは段階露光の各ステップの光量の差(つまり濃さの差)がバラバラになっています。光量の差を一定にしないと、意味のあるテストプリントを作ることはできません。
では光量の差を一定にするにはどうするか。それは露光秒数を変化させます。そうすれば、濃さの差が一定のテストプリントを作ることができます。これは全く難しいことではないのですが、タイマーを使おうとすると作業が煩雑になってしまいます。それにテストプリントの初めはしょせん当てずっぽうで時間を決めているわけです。つまりある程度はざっくり始めて構わない。そこで、タイマーを使わず耳でカウントすると効率よく作業ができるようになります。
光量の変化を1/3倍ずつの差にする場合は露光時間を1.26倍にしていく…など細かい話はこの際置いておきます。簡単でとてもナイスな方法をアナログ写真ワークショップのプリント実習で解説していますので、関心のある方はそちらにご参加ください。
大事なことは、効率良く暗室作業をするためには、タイマーを使わず耳でカウントする。これです。これ。
そのために音の出るタイマーやメトロノームを使うこともできますが、いっそ秒数カウントを暗室作業のBGMでやってしまえばいいではないか。つまりテンポが120BPMの曲をBGMに使えば、いつでも耳で正確に秒数をカウントしてテストプリントをつくることができるではないか!自分、頭いい!
暗室作業に最適なBGM
では暗室作業に最適の120BPMの曲を紹介!!
うぉーあがるー!!つまりこうですね。わかります。
ということは、こうか!
これもいける!
ちょっと新しめのも。ジャミロクワイ!
マッダーンナ!
素晴らしい。はずれ無し。テンポ120BPMというのはダンス・ミュージックの普遍的な形式なんですね!そもそも「秒」という時間単位が身体的な気持ちよさから決められているのではないかとすら思えてきます。
暗室作業の話に戻ると、曲に合わせて30秒間カウントして誤差2秒以内だったらその曲は十分使えます!120BPMの曲はYouTubeなどの再生リストにいくつかまとめられたものもあります。
もちろんこの方法が使えるのは最初のテストプリントの段階だけです。次のステップからはタイマーを使い、プリントが最も美しくなる露光時間を追い込んでいきます。その際も、タイマーで適当に秒数を刻むのではなく1/6倍や1/12倍の光量差を秒数に換算してテストしていくと、合理的で汎用性のあるプリントデータを得ることができます。
おまけ:ディスコと心肺蘇生法
ヴィニー・ジョーンズが教えてくれるCPR(心肺蘇生法)。心臓マッサージに合わせる曲はもちろんStayin' Alive(生き永らえろ)!
「ステイン・アライブ」は実はちょっとテンポが遅め。心肺蘇生法にもやはり120BPMが適切なのですが、緊急的な状況で曲を思い出すとテンポが少し早くなるので「ステイン・アライブ」がちょうどいいようです。みんな知ってる曲だしね!だけど暗室での秒数カウントにはちょっと使えない。残念!
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