いったいカメラを何台持っているんですか?
10台以上ですね。
すごい!
これまで長い間、私たちはこんな会話を交わしてきました。しかしいまカメラを常に1台以上持ち歩いていない人はいません。そして私たちを写しているカメラの数はもっとたくさんあります。
これからカメラの数は爆発的に増えます。誰も見ることのない写真のために。
カメラを何台持っていますか?
私たちはかつてカメラは特別なものであり、日常的に持ち歩くものだとは考えていませんでした。ましてやカメラを複数台所有しているのはプロでなければよほどの趣味人でした。しかし現在、日常的にカメラを1台以上持ち歩いていない人はほとんどいません。ほとんどのスマートフォンには表面と背面に2台のカメラがついています。背面に2台のカメラを搭載するデュアルカメラを搭載したスマートフォンも増えています。つまり電話を持つということはそれだけで3台以上のカメラを持ち歩くことを意味しています。
そのうえ、私が使用しているデスクトップにもノートPCにも、モニター付近にカメラが搭載されています。車には後方確認のためのカメラやドライブレコーダー、それに運転者の状態を記録しモニターするカメラも搭載されるようになっています。私たちは気が付かないうちに身の回りに何台ものカメラを所有するようになっているわけです。そしてその数はさらに増えるでしょう。信じられない勢いで。
画像認識関連テクノロジーのベンチャーキャピタル「LDVキャピタル」が公表した調査では「控えめな予測」として今後5年以内にカメラの総数は450億台に達するとしています。
これらの多くは実際に見られる写真のためではなく、監視やセンサーのためのものです。つまり誰の目に触れることのない画像を撮影するためのカメラです。もちろん誰かが見たい、あるいは見る必要があると考えれば、それらの画像とデータを入手することはできるでしょうけれど。
AI、カメラ、iPhone
LDVキャピタルが特に注目しているのはデプスカメラです。これは深度を計るセンサーを備えたカメラで、すでに実用段階です。顔認識、モーションキャプチャー、自動運転技術などにすでに使用されています。今後AI研究が進むに従い、大きな発達が予測される分野です。
携帯電話の形状で16台のカメラを搭載した悪夢のような見た目のカメラ「Light L16」。撮影後にズームできる、被写界深度を変えられるなどの使い方が先行していますが、室内の全ての寸法を写真を一枚撮影するだけで計測するなどの性能が付加されることも期待されています。
先日、Appleが公式Instagramアカウントを開始しました(@apple)。SNSに企業が公式アカウントを持つのは当然ながら自社の宣伝のためですし、それがInstagramなら製品の写真がアップされるだろうと普通なら考えます。しかしAppleのInstagramアカウントにあるのは、一般のどこかの誰かが撮影した写真だけです。共通しているのはこれらの写真がiPhoneで撮影されたということです。Appleは、Instagramに投稿する写真に#ShootiPhoneとタグを付けることで、このコミュニティへの参加を促しています。シンプルで見事なプロモーションです。かつてiPodの発売で音楽の楽しみ方そのものを変えたAppleが今度は写真の楽しみ方を変えつつあります。
カメラ、撮影、写真。これらの意味が大きく変動している時期を私たちは体験しています。この変化は不可逆的で、いちど変化した意味はあとでもう思い出すことができなくなるでしょう。私たちはとても忘れっぽいですからね!
変化することが悪いことだとは思いません。しかし変化しないこと、あるいは別の変化もあっていいはずです。それがオルタナティブ写真でありたいですね。カメラや写真の意味が大きく編み変えられていく時代に、これからも東京オルタナ写真部は歴史を踏まえつつ予想の斜め上をいきますわよ。