カリフォルニア空軍州兵の軍曹エド・ドリューは、
2013年にアフガニスタンのヘルマンド州にいた。

彼はレスキュー部隊のヘリコプターの狙撃手として配属されたが、
戦争に行く前はブルックリン出身の写真家だった。

戦争から帰って写真家のキャリアに戻るにあたり、彼はちょっとした有名人になった。

アフガニスタンにいる間に同僚たちの写真を撮ったからだ。

150年前の技法で。

アフガニスタン戦争のティンタイプ

Afghanistan, Combat Zone Tintype ©Ed Drew

エド・ドリュー(Ed Drew)はアフガニスタンの米軍基地で同僚のポートレートを撮影した。彼が撮影した写真は「ティンタイプ」と呼ばれる古い技法で、アメリカでは主に1860年代から1870年代にかけて流行した。写真撮影用のフィルムは1890年ごろに登場するが、それ以前は、金属やガラスの板に感光材を塗布して撮影した。ティンタイプは黒く塗った薄い鉄板に撮影する方法で、簡単で安く作れたことから非常に流行した。

写真を持つ喪服の少女 ティンタイプ 1860年代 アメリカ:Library of Congress

エド・ドリューのアフガニスタンの写真は「南北戦争以来初めて戦場で撮影されたティンタイプ」あるいは「1860年代のスタイルで撮影されたアフガニスタン戦争」という見出しで、アメリカのメディアで話題になっている

ひとつ気になることは、アフガニスタンで写真家がティンタイプを撮影したことはともかくとして、なぜ「南北戦争」や「1860年代」が引き合いに出されるのだろうか。そもそも、日本ではほとんど誰も知らない「ティンタイプ」という言葉が、アメリカではニュースのヘッドラインに使われるのはなぜなのだろうか?

南北戦争の心的イメージとティンタイプ

その理由は、アメリカの写真が1860年代の南北戦争から始まっているからだ。もちろんそれ以前にもアメリカに写真術はあったが、技法が複雑で高価なダゲレオタイプ(銀板写真)が主流だったため、大衆に普及するほどではなかった。しかし1860年代に大流行したティンタイプは、技法が簡単で安価に作れたことから、写真館と顧客の両方を大量に生み出した。折しも開戦した南北戦争に出征する兵士とその家族は、写真館でこぞってティンタイプを撮影した。

そのため、アメリカ人の「古きアメリカ」のイメージは、現在も大量に現存するティンタイプの画像として記憶されている。それが「ティンタイプ」という語が現在もアメリカで広く認識されている理由だ。

兵士のポートレート ティンタイプ 1860年代 アメリカ:Library of Congress

アフガニスタンのティンタイプを報じたニュースが「南北戦争」を引き合いに出すことには、それ以外にもうひとつ理由がある。

南北戦争では、アメリカで初めて、大量の写真(ティンタイプ、ガラス湿板)が戦場で撮影された。当時はまだニュース媒体に写真を印刷する技術はなかったが、それでも戦場で撮影された写真はメディアの上で大きな話題になった。写真を元に描かれたリトグラフが新聞に掲載され、「従軍写真家」たちの活動はおおいに人々に知られるところとなった。

新聞記者がペンを用いて紙面に描き出す英雄的な戦争。そのストーリーにリアリティを付与する写真は、新聞メディアに非常に歓迎された。そして写真家の方も、一枚の写真に壮大な意味を与えるメディアに迎合した。もっとも有名な南北戦争の従軍写真家マシュー・ブレイディは、愛国的で救国的な戦争を記録した自分の写真は、国家予算で買い取られるべきだと、長年にわたり主張するほどだった。

イギリスの写真家ロジャー・フェントンがクリミア戦争の撮影に使った写真撮影馬車。湿板写真の撮影時に必要となる暗室を備えている。南北戦争でも同様の馬車が使用された。

物語とリアリティを相互に与え合う、メディアと写真の蜜月は南北戦争から始まったといえるだろう。現在の私たちにとっては、ニュース写真にキャプションがつくのは当然のことになっている。何が写っているのかわからない写真にニュースとしての価値はないからだ。しかし、写真にキャプションが付き、それをリアリティの担保にしてメディアがストーリーを描くようになって以来、私たちは内的な確信の根拠の多くの部分をメディアが語る物語に明け渡している。

その後、南北戦争の写真は、様々な物語を与えられながら現在に至るまで繰り返し消費され続けている。もっとも早い南北戦争写真のリヴァイヴァルはすでに1880年代に起こった。そして1911年に刊行された10巻本の『写真で見る南北戦争史(Photographic History of the Civil War)』において、アメリカの「聖なる記憶」としての南北戦争のイメージは完全に定着した。

これは、年月の古びを経た写真を通して語られるアメリカの叙事詩である。この叙事詩は、そのロマンスと騎士道精神において、古代の武勇譚よりはるかに勝るものである。…

『写真で見る南北戦争史』 編集者 F.T.ミラーによる序文

歴史の現実を考察する注意力を喜々として放棄したこの序文には、多くの歴史家が批判を加えているが、おそらく通俗的には広く受けいれられたと思われる。この文学的想像力の中で美化された南北戦争のイメージが、その後に書かれた物語、なかでも1939年の映画『風とともに去りぬ』の誕生に無関係だったとは考えにくい。

『写真で見る南北戦争史(Photographic History of the Civil War)』全10巻 1911年
『写真で見る南北戦争史(Photographic History of the Civil War)』第1巻 1911年 California Digital Library

写真とメディアは、相互に意味を補強しあいながら物語を育て上げ、南北戦争のロマンティックな心的イメージをアメリカの大衆の心に作り上げた。南北戦争はアメリカの壮大な叙事詩であり、それを飾るティンタイプの画像と共に人々の心に想起される。アフガニスタン戦争を撮影したティンタイプが「南北戦争」「1860年代」という語とともに、アメリカのメディアで大きな話題になるのには、そのような背景がある。

どのような戦争も始まってみると、理由や目的はよくわからなくなる。無意味なものに生命を危険にさらすことほど、人間を疲弊させ不安にするものはないだろう。そのようなときに私たちが渇望するのは、現実を単純化し、美しい物語で意味付けるキャプションにほかならない。

終戦から早くも50年後には、南北戦争は膨大な写真とキャプションによりアメリカの伝説的な叙事詩となった。そこで忘却されているのは、同国人が総力を挙げて殺し合い、戦闘員だけで60万人が死んだという現実だ。これはアメリカが経験した戦役史上、最悪の死者数である。

アフガニスタン戦争は開戦から12年経ち、かつて人々を熱狂させた物語はとっくに色褪せている。そしてそれはいま、膨大な浪費と無為な死という疎ましい現実の姿を人々に見せている。

いまだ出口の見えない戦争がティンタイプで撮影された時、それを報道した全てのメディアが南北戦争に言及した。それは、この現在がいつか南北戦争と同じように懐古される時代が来ることを、ティンタイプの画像が想起させるからだろうか。そして、この戦争が忘却と美化の歴史に書き込まれることに慰めと期待を覚えたからだろうか。

 

This is the American epic that is told in these time-stained photographs — an epic which in romance and chivalry is more inspiring than that of the olden knighthood; brother against brother, father against son, men speaking the same language, living under the same flag, offering their lives for that which they believed to be right. No Grecian phalanx or Roman legion ever knew truer manhood than in those days on the American continent when the Anglo-Saxon met Anglo-Saxon in the decision of a constitutional principle that beset their beloved nation. It was more than Napoleonic, for its warriors battled for principle rather than conquest, for right rather than power.

Francis Trevelyan Miller, Editor-in-Chief.

"Photographic History of the Civil War" volume 1, Editorial introductory

 

 

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参考資料など

Civil War Faces (flickr)

アメリカ議会図書館が所蔵する、南北戦争当時に撮影されたティンタイプのコレクション。大量のポートレートを見ることができる。

Civil War Faces
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