Eugene, Frank, Camera Work No,30, 1910年
グラビア写真という言葉を聞いたことがない人はいないだろう。水着の女の子を激写したあれである。
ちがうって。
ちがうって。
ちがうって。
3回言うけれど。
本当のグラビア写真は、歴史のある写真プリント技法のことだ。
グラビア印刷という印刷技法があり、それはかつて絵や写真を美しく印刷できる唯一の印刷技術だった。網点を使わずグラデーションを美しく再現できるために画集などの美術書印刷に多用された。
そのうち「グラビア」という言葉は図版印刷の意味になり、やがて写真の多い雑誌がグラビア雑誌と呼ばれ、成人男性向け雑誌の意味になった。もちろん日本でだけね。
では世界でもっとも有名な「グラビア雑誌」といえば、まちがいなくこれ。
Camera Work, No 2, 1903年 |
1903年、アメリカを代表する写真家アルフレッド・スティーグリッツにより創刊。1917年まで50号が刊行された。この雑誌は、写真の芸術性を確立することを目的に制作されたため、高級で美麗なグラビア印刷が採用された。20世紀初頭を代表する写真家たちが参加した”CAMERA WORK”は、写真史におけるもっとも重要な雑誌のひとつになった。
Soul of the Blasted Pine Brigman, Annie A. Camera Work No,25, 1909年 |
Harlech Castle Davison, George, Camera Work No,26, 1909年 |
Marchesa Casati Adolf de Meyer Camera Work, No 40 1912年 |
Menuet Eugene, Frank, Camera Work 1910年 |
よくある素朴な写真史観は、写真表現は時間が下るにしたがい進化してきていると考える。しかし古典的な芸術写真のどれを見ても、そんな単純な進歩主義はどこにも存在しないことがよくわかる。むしろ、私たちが歴史の中で失ってきたものの大きさのほうに驚きを感じる。
世界で「グラビア雑誌」といえば、”CAMERA WORK”。
芸術だぞ、芸術。
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グラビア印刷(フォトグラビュール)は個人でも制作することができる。
基本的な技術は銅版画と共通しているが、ハーフトーンを表現するために工程はやや複雑になる。
ざっくり書くとこんな感じ。
- 銅板を磨く。
- 松ヤニの粉末を空中にまいて、銅板に均一に付着させる。(アクアチント)
- ゼラチンティシュー(ゼラチン層をコーティングした紙)を感光化する。
- ゼラチンティシューにネガフィルムを密着させて露光。
- 銅板とゼラチンティシューを密着させ、温水をかけて紙をはがす。
- 銅板に移ったゼラチン層を温水で現像。(ゼラチンレリーフを形成)
- 銅板を腐食させる。
- 銅板からゼラチンレリーフを取り除けば、印刷用原版の完成。
- 銅版にインクを刷り込む。
- プレス機で紙に印刷する。
熟練を要する技である。
参考サイト
フォトグラビュールに関する豊富な資料と図版。
フォトグラビュールの現代作家、ピーター・ミラーさんのサイト。鎌倉在住。