銀塩写真を始めたい人へ:モノクロフィルム編 #6 アドックス/ ADOX
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最終更新日:2021年6月17日
もしかすると、いまどき銀塩写真を始めたいひとがいないとも限らない。
万が一、そんな人がいた場合に備えて最近の銀塩写真情報をぼちぼちとまとめていきます。新品フィルムカメラ全網羅に続きフィルム編。それもモノクロフィルム。風前のともし火と言われはや10年余。名を変え、国を変え、しぶとく生き続けています。
I'm still STANDING!!
モノクロフィルム、まだ買えます。買えますとも。今回はドイツの老舗にして新進メーカーのADOX。世界最古のフィルムメーカーは、最新の新開発フィルムで勝負します。
そもそもカラーフィルムが普及した時点で、モノクロ(白黒)フィルムはまだ必要なのか?という議論もあったのではないかと思います。しかし、白黒フィルムはカラー時代を生き抜きました!それは、カラーフィルムをモノクロ画像にするよりも、最初からモノクロフィルムで撮影した方がだんぜんきれいだったからです。
デジタル時代にも同じことが言えるとは思うのですが、デジカメにフィルムを入れて撮影するわけにいかないので、フィルムカメラが衰退するとともにフィルム生産も大幅縮小されました。しかしモノクロフィルムはこのまま無くなるのか、と思いきや、国を変え、会社を変え、工場を変えて、多くのモノクロフィルムの生産はまだ続いています。
今回紹介するモノクロフィルムメーカーは「アドックス」です。
アドックス。正直、あまり聞いたことありませんでした。それもそのはずで、最近の銀塩写真事業は2003年から始まったそうです。いや復活したと言うべきか。このアドックス、非常に歴史のある会社で創業は1860年のフランクフルト。世界で最も古い写真製品のブランドです。1860年(万延元年)といえば、福沢諭吉がアメリカで初めて触れる近代文明に腰を抜かしていた年です。日本はまだ、「会社」?なにそれ?状態。
アドックスは写真感光材料やカメラを販売していましたが、1962年に会社ごとデュポン社に売却されました。そこでアドックス・ブランドはいったん終了。そしてアドックスの新しいオーナーは、写真材料の製造ライセンスを機材ごとクロアチアのフォトケミカ社に売却。そうしてアドックスの製法はクロアチアのフィルム「efke エフケ」ブランドに引き継がれました。
※その「efke エフケ」は、2012年に機械の故障(!)で写真感光材料の製造を終了。
2003年にドイツのフォトインペックス社によりアドックス・ブランドが復活。
フォトインペックス社は、当初は旧来のアドックスフィルムの復活を目標にしていました。しかしやがて、同じドイツのアグファが倒産したため、アグファの技術を移入した最新の白黒フィルムを開発するに至ったようです。
アドックスCEOが熱いソウルを語っています。
新登場!HR-50!
技術用途に使用される高解像度フィルムを応用した製品。ADOXのSpeed Boost テクノロジーで、フィルムの感度をISO50まで上げ、コントラストは下げる調整がされています。これにより通常用途で使用可能なフィルムになっています。
近赤外領域まで感光性があるため、黄色、オレンジ、赤フィルターを用いることで擬似的な赤外線写真の効果が得られます。
高シャープネス、超微粒子。
Adox HR-Dev、Adox Atomal 49、Rollei Supergrain などの補正効果の強い現像液が最適です。特に専用現像液のAdox HR-Devを使用すると、画像の最暗部から最も明るい部分まで質感を表現することができます。
このフィルムには「Speed Boost テクノロジー」を施していないバージョンもあります。
ADOX IR-HR Pro 50 135/36 (HR-50 WITHOUT SPEED BOOST)
マックスです、マックス。シルバーマックス。銀、マックス!
通常のフィルムより銀量を増やしたことにより、フィルム濃度が上がりトーンが豊かになっています。シャドウからハイライトまで全てのゾーンにしっかりした階調が現れます。旧型乳剤のフィルムなのですが、T粒子フィルムに匹敵する粒状性とシャープネスを持ちます。
またシルバーマックス専用現像液を使用することで、14絞り分のラチチュードを獲得できます。通常の白黒フィルムでは10〜11絞り分を写せる範囲として想定しています。ですからSilvermaxのラチチュードの広さはちょっとぶっちぎりです。しかもただ「写っている」だけじゃないんですね。
上の特性曲線を見ると、シャドウ部からハイライトまでほぼ直線で立ち上がっています。これは暗部のディテール描写に優れていることを意味します。暗い部分がただ写っているだけではなく、美しいトーンで描写することができます。ハイライトも白飛びしてしまわないので、プリントの際に焼き込みすることができます。トーンの豊富なリッチな画作りができそうです。 このSilvermaxは、アグファのAPX100を元に改良を重ねた最新の高品質フィルムです。
2016年から製造が停止していましたが、2018年よりシートフィルムから復活!ロールフィルムも順次発売再開予定です!
こちらはSilvermaxのお兄さん。
ぶっちぎりの才能を持つ弟に対して、どんな場面にも動じない、頼れるしっかり者です。
被写体を選ばずクオリティの高い画質が得られます。
古典的な旧型乳剤を使用していますが、2重のハレーション防止層を備えるため非常にシャープです。またかなり微粒子でラチチュードも広く、非常に使いやすいフィルムです。
現像方法の変化に対する反応も良く、ロジナールなどの古典現像液や、パイロ系の染色現像液でも良い調子のネガが得られます。
また、このCHS100IIとディテール描写に優れたシュプールHRX現像液との組み合わせは、海外の写真愛好家の間ではもはや「鉄板」のようです。(下記Webページなど参照)
The Online Darkroom
Adox CHS: The love affair continues
スカーラ!
かつてアグファが製造していたあの伝説的白黒リバーサルフィルムが復活!ADOXがアグファのレシピを元に再開発。ISO160、微粒子。リバーサル現像処理に特化した設計。最大濃度は3.6以上になるため、スライドにすると印画紙プリントでは実現できないほど広いダイナミックレンジの映像が得られます。ネガとして使用する場合は感度は80~100程度になります。
Silversaltがリバーサル現像サービスを行っています。
Adox Scala 160 リバーサル現像サービス
このフィルムは上記のSILVERMAXと同等品です。
リバーサル白黒フィルム、第二弾!名前はSCALAですが、上記の160とは乳剤が異なるようです。こちらはスーパーパンクロマティック。近赤外線領域まで感光性があります。
Silversaltがリバーサル現像サービスを行っています。
Adox Scala 50 リバーサル現像サービス
無粒子!超高精細!
銀塩モノクロフィルム最高の微粒子に、レンズの分解性能を凌駕する超シャープネス。
デジタルカメラに換算すると、5億画素(500メガピクセル)です。
ちなみに、ソニーの最高解像度のカメラα7R IVが6100万画素。
最新レンズの性能を最大に引き出してかりっかりの画を撮りたいときには、最高のフィルムです。35mmの小型カメラで撮影しても、大判カメラに匹敵するシャープな写真が撮れます。無敵。
CMS 20のあきれるほどの超シャープネスぶりは、こちらのページで確認することができます。
ですがこのフィルム、あえてレンズの絞りを開けて、無粒子の柔らかいトーンを生かしたボケの美しい写真を撮ることもできます。いずれにせよ、レンズの持ち味を最大に生かせるフィルムだと言えます。
CMS 20 IIは元々、文書を複写するためのコピーフィルムです。そのため、通常の現像をしてしまうと非常に硬調な画になってしまいます。連続したトーンにするには軟調現像が必要です。ADOXからは専用現像液が用意されています。それ以外では、やや現像は安定しないものの、ロジナールの高希釈現像(1:150程度)でも連続トーンが出せるようです。
銀塩写真の最近の情報をまとめるシリーズ、モノクロフィルム編。
前世紀の遺物。風前のともし火。なんとでも言え。どっこい生きてます。
さすらいのヨーロッパ編。
ヨーロッパでは、かつての名フィルムたちが製造中止と再生産をくりかえしています。
次回はFOMA。
いま買える写真用白黒フィルムの最新リストを公開しています!
東京オルタナ写真部では、アナログ写真ワークショップを開催しています。かっこいい写真表現のための技法を合理的に解説します。フィルムを初めて触るひとでも大丈夫。ご参加お待ちしています!
開催予定のワークショップは「現在募集中のワークショップ」のページをごらんください。
東京オルタナ写真部では、オリジナルフィルム現像液「東京パイロ Tokyo Pyro」を開発しました。ありきたりな画になる要素を排し、アナログ写真ならではの美しい画に全振りしたフィルム現像液です。
世界の写真コミュニティで話題の最新現像液「510 Pyro」よりも、はるかに美麗な画像を得ることができます。
デジタルでは代替できないアナログの魅力を最大に活かす、最先端フィルム現像液。東京オルタナ写真部ショップで好評販売中です!
東京パイロについてより詳しい解説は次のページ「オリジナルフィルム現像液 |東京パイロ TOKYO PYRO」をご覧ください。