日本の近代を代表する写真家 野島康三(1889-1964)の作品展が渋谷の松涛美術館で始まった。

『生誕120年 野島康三 肖像の核心展』(PDF

この展覧会には、作家の主要な作品と、松涛美術館が長期に渡り調査と収集を重ねてきた、豊富な一次資料が展示されている。野島康三は、画廊経営、写真誌の発行、また芸術家たちに物心両面にわたる個人的な援助を行うなど、戦間期における芸術シーンの重要なキーパーソンのひとりである。

そういった意味で、この展覧会は、単なる一人の写真家の回顧展にとどまらない。むしろ、日本人が初めて経験した近代化の中で、かつての文化人が、「芸術」を社会の中でどのように構想し模索したのか、ということがこの展覧会の主眼だと言える。実際、これは美術に関係する全ての日本人にとって、重要なテーマのはずだ。

自分は今回、この展覧会の展示資料として、野島康三が残したネガフィルムから新たにガムプリント(ゴム印画)を制作した。

世界の写真史の中に置いても、野島が残したガムプリント作品のクオリティの高さは際立っている。
しかもガムプリント自体、日本の写真家たちからは忘れ去られて久しく、この技法でプリントできる写真家は国内ではほぼ絶滅している。この熟練を要する技法で、現在、野島たちのレベルのプリントを復元することは、さほど簡単なことではない。

そのようなわけで、数少ない日本人のガムプリント作家としては、なかなかスリルのある挑戦だった。自分もその一端を生きている写真史に向かい合う仕事だったとも言える。
作業にあたり、念頭に置いたテーマは、「野島康三(ゴム印画)完全コピー」

制作のレポートはこちら。

Kenshi Daito photograph 野島康三のネガからガムプリントを作る

制作したプリントは、松涛美術館、2階の第2展示室前のケース内に展示されているのでお見逃しなきよう!