写真レンズの歴史、それはカオス
写真レンズの歴史、第3回。ここまでの話はこんな感じ。
第1回:写真レンズの設計はそもそも無理ゲー。要求が無理すぎ!
第2回:写真レンズ開発はみんなで問題を解決してきた歴史だよ。
だけどレンズ開発はいろんなアイデアが出まくりで、順序よく歴史記述するのは無理。控えめに言って写真レンズの歴史はカオス!そして今回は、そんなカオスな歴史をひもとくもうひとつの見方の紹介です。
ありとあらゆる思惑と思いつきがあふれかえっている写真レンズ史ですが、それでもひとつの法則はあります。それは「良いアイデアは残り、悪いアイデアは消えていく」というシンプルなルール。
6つのチャンピオン
そして良アイデアのなかでもとくに優れたチャンピオンたちが存在します。適者生存、弱肉強食という野生の掟を生き延びたその数、たった6種類!
現代にいたるまでの写真レンズのほとんどは、この6つの系統に分類することができます。そしてこのうち5つはすでに1900年までには発明されていました。現代のレンズと同じ設計のレンズが1900年には入手可能だったということです!勢いが強い。
それではこのレンズの基本形とも言えるチャンピオンたちを紹介していきます。ルドルフ・キングスレイク著『写真レンズの歴史』とあわせて今回参考にさせていただいたのは、機材レンタルショップlensrentalsのRoger Cicala氏のブログ記事です。
写真レンズ前史
もっとも単純な映像用レンズは写真の発明より前から存在していました。主に写生のデッサンを描くために使われていました。
メニスカスレンズと色消しダブレット
レンズを三日月型に曲げたメニスカスレンズはふつうの凸レンズよりも写りが良いことを発見。そしてもうひとつ。これはすごいと思うのですが、屈折率が違うレンズを2枚貼り合わせると色のにじみを解消できることを発見!よくそんなこと思いついたな。
1839年に写真が発明されると、その瞬間から写真レンズは一気に進歩していきます。
すべての写真レンズの祖先:6つの基本型
現代にまで続くレンズの基本形は、なんと1900年までにはほとんど出そろっていました!
ペッツバール
天才ペッツバールにより1840年に発明された、革命的に明るいレンズ。史上初の光学計算コンピューターを使って設計されたレンズでもあります。「コンピューター」って言っても人ですけど。8人の大砲の砲撃手が、弾道の代わりに光軸計算に参加。フォクトレンダーはこの傑作レンズを売りまくって大成功します(ペッツバールへのライセンス料は踏み倒した!ビジネスの世界、えぐい!)。
ペッツバールタイプのレンズは、ぐるぐるボケが発生する、周辺部がボケるなどの欠点はあったものの中心部がシャープなため、映写用プロジェクターのレンズとして1970年ごろまで製造され続けました。
最近のオールドレンズブームで復刻版も発売されています。
ラピッドレクチリニア
適度に明るく、線が真っ直ぐに写る。その名も高速直線レンズ!昭和のヒーローの必殺技みたいな名前ですね。当時は、線が真っ直ぐに写る暗いレンズ(風景、建物専用)と、線が歪む明るいレンズ(人物専用)のどちらかを使い分けていました。そりゃ、線が歪まない明るいレンズが待望されたわけです。この問題を解決したのがラピッドレクチリニア。このレンズ設計は非常に成功し、その後のレンズにも大きな影響を与えました
※テッサー
写真レンズに少し関心あるひとなら、必ず聞いたことのあるテッサー。現代のレンズの多くはテッサーの改良と言っていいほど驚異的な成功を収めたレンズです。このレンズ、前から凸凹凸という3つの構成なのでこの後に紹介するトリプレットの系列に見えますが、実はラピッドレクチリニアから派生した設計です。
まず最初にラピッドレクチリニアの前後対象型を変形したプロターが設計され、前群に空気の間隔を開けて改良したものがテッサーです。とはいえ、後年になるとテッサーかトリプレットか見分けがつかないレンズも登場してきます。
トリプレット
他のどのレンズよりも多くのレンズを生んだ、史上最も重要なデザイン。たった3枚のシンプルな構成なのに、うまく収差を補正しています。しかもシンプルなのでコストが安い。
真ん中の凹レンズを前後に移動させると画角が変化します。トリプレットは、ズームレンズの先祖でもあります。
歴史的には非常に成功したレンズですが、写りはそこそこなためか21世紀の現在、生き残っているとはあまり言えなさそうです。
ダブルガウス
ツァイスプラナーをはじめ、数々の傑作レンズの祖先です。ダブルガウスタイプはいまでもぜんぜん現役ですね。ラピッドレクチリニアと同じ前後対象型ですが、前後それぞれに空気間隔があるのが特徴です。
ちなみにガウスがガウスタイプのレンズを発明したのは1817年。それを前後対象にしたダブルガウスは1888年。ダブルガウスはガウスの名を冠しているものの、当のガウスが発明したものとはぜんぜん違うレンズになっています。
望遠レンズ
もういちど言いますが、「望遠レンズ」は焦点距離が長いレンズのことではありません。レンズの長さが焦点距離よりも短いレンズのことです。例として、焦点距離1200mmのレンズが実際に1.2mもあったら、でかすぎて持ち運びできんわい!もっと短くならんのか!ということで短くなるように設計したのが望遠レンズです。ちなみに最新の1200mmレンズの全長は50cm台です。短い。
現代的なレンズでは焦点距離135mm以上のほとんどのレンズは望遠設計になっています。
望遠レンズの特徴?望遠です!焦点距離が長いこと!(ふりだしにもどる)
逆望遠レンズ
逆望遠レンズは望遠の逆です。レンズからフィルムまでの距離を焦点距離よりも長くすることができます。へ?なんのためにそんなことが必要なのか?それは、一眼レフカメラです!
シャッターボタンを押すと、②のミラーが跳ね上がり、③のシャッター幕が走り、④のフィルムに露光する。
一眼レフカメラは中にミラーがあり、シャッターを切るタイミングで跳ね上がる仕組みになっています。このミラーのための空間が40mm以上必要です。ということは、ふつうに考えると40mmより短い焦点距離の広角レンズ(35mmや24mmとか)は、使えないことになります。そこで、レンズの後ろの距離を伸ばす設計が登場します。それが逆望遠レンズです。
一眼レフカメラ用のレンズでは、50mm f/1.4レンズより24mm f/1.4レンズのほうが、高価で大きくなるのは、逆望遠設計が理由です。
ちなみに「レトロフォーカス」は逆望遠と同じ意味です。フォーカスがボケてレトロ風なわけじゃないんです。
さてこの逆望遠(レトロフォーカス)も、ミラーレス一眼カメラの台頭により、必須の設計ではなくなってきています。ミラーレスカメラはミラーがないので、レンズとセンサーの間に空間の制約がないからです。盛者必衰の理、なう。現在の私たちもまた、レンズ設計の移り変わりに直接関わっているんですね。
ブログ「写真レンズの歴史」シリーズ
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