写真を教えない写真ワークショップをやってみた
先日、写真を教えないことにしたワークショップを開催しました。なぜそんなことをしたのか、少し紹介したいと思います。
「はじめてのアナログ写真ワークショップ」暗室でプリントの会を開催しました。これは…飾って愛せる作品ではないですか。すばらしい。ハウツーを全く教えないワークショップ、ほんとうにとても良い結果になりました。次回は9月26日からです。▶https://t.co/gIRfGeQIdq pic.twitter.com/HckoqihY5m
— 東京オルタナ写真部 Tokyo Alternative Photography (@TokyoAltPhoto) August 16, 2020
写真ワークショップのジレンマ
東京オルタナ写真部では、白黒フィルムを使うアナログ写真のワークショップを開催しています。
写真のワークショップをやっていると、思いがけないことに気付かされることがありますが、そのなかでも、けっこう深刻なのがこれです。
写真の知識があることと、いい写真を撮れることは、実はそれほど関係がない(ように見える)
もちろん、知識が増えるほど写真が下手になる、などと言いたいわけではありません。しかし実際にワークショップを開催していると、写真に詳しいひとほど撮影実習の結果が面白くないということが、しばしば起こります。
写真の知識を教えると逆効果になるかもしれないのだとしたら、これは教える側からすると、とんでもないジレンマです。いったい、写真の知識って何なのでしょうか。
写真を学びたいひとに、ほんとうに必要なこと
写真を学びたいひとに、ほんとうに必要なことは何だろうか。このことをずっと考え続けていましたが、自分ひとりで考えるよりも、相談したほうがいいように思えてきました。
そこで先日開催した「はじめてのアナログ写真ワークショップ」では、参加者のみなさんといっしょに内容を考えながら進めることにしました。
写真を学びたいひとにほんとうに必要なことは何か、当事者のみなさんにきいてみた!
はじめての、アナログ写真ワークショップ
写真初心者がほんとうに知りたいこと
さてワークショップの初回。まず最初に、写真の初心者と、初心者でないひとの違いを聞いてみました。
いろいろな答えがありましたが、だいたいまとめると、
- 初心者ではないひとは、撮りたい写真を撮るための技術をもっている。
ということでした。
なるほど。まちがいない。
では次に、初心者向けのワークショップで具体的になにを教えればいいかを聞いてみました。答えは…
- カメラの使い方
- 機材の使い方
- カメラ用語の説明、露出とかピントとか
- 構図について
なるほど、これもまちがいない!
…いや、ほんとうか?
「写真のハウツー」はほんとうに必要だろうか?
さっきの質問の答えをよく見てみると、どれも「写真のハウツー」です。でもそれは「自分が撮りたい写真を撮るための技術」と同じものでしょうか?よく似ていますが、もしかすると全然ちがうものかもしれません。
そこで参加者のみなさんに改めて聞いてみました。
「なにをしたくてこのワークショップに参加しましたか?」
すると、答えは、
- 自分が撮りたい写真、いい写真を撮れるようになりたい。
ですよね!それだけです。
撮りたい写真を撮れるようになりたい。それがいちばんの目的です。
それなら初心者が対象の写真ワークショップで最初にやることは「自分が撮りたい写真」を考えることのはずです。「写真のハウツー」が、いちばん大事ではないことは確かです。
…でもこんな反論ができそうです。
「いやいや、まず技術を学んで、それから自分がやりたい写真作品が撮れるようになるんでしょう?だから写真のハウツーを学ぶことの方が先なのでは?」
うむ…ふつうはそう考えがちです。知識があって初めて作品を作れると。しかしよく考えてみると、決してそんなことはないはずです。まず目指したい作品のイメージが自分の中にあって、それを実現するのが技術のはずです。自分が作りたい作品のイメージは、常に技術に先行するはずです。
もしハウツーや技術が先なのだとしたら、それはきりがないので、いつまでたっても作品が始まらなくなってしまいます。
写真を知っている人ほど、面白い写真が撮れない。
こういうことが起こるのは、その人の中で写真の知識の方が、自分が作りたい作品のイメージより優先されているからではないでしょうか。
ですからこのワークショップでは、写真のハウツーにはまったくふれずに、写真でやりたいことを見つけることに極振りしました。写真の勉強ではなく、自分の作品をイメージすることに極振りです。
はじめての、写真を教えない写真ワークショップ
そうやって開催した「はじめてのアナログ写真ワークショップ」。最初に次のことだけは決めておきました。
- ハウツーの解説をしない。
- 資料を配らない。
資料を配らないのは「勉強」になることを避けるためです。これまでのワークショップでは、資料を配ったとたんに「勉強」が始まる雰囲気になってしまいました。そしてそうなると、なぜか自分で考えることが止まってしまいがちになります。
それにしても、これまで多くのワークショップを開催してきましたが、写真を教えないことにしたワークショップはこれがはじめてです。
初心者は、かっこいい写真しか撮ってはいけない。
このワークショップの撮影実習では、カメラと露出計の使い方だけ、ほんとうに最低限のことだけをそれぞれの人に説明しました。露出のミスに強いフィルムを持って、いざ撮影へ。
撮影実習にあたって注意事項はひとつだけ。
「かっこいい写真を撮ってください。かっこいい写真しか撮らないでください。」
試し撮り禁止。フィルムの全コマ、本気のかっこいい写真しか撮っちゃだめ。これは「教わったことをやってみました」と、研究熱心だけどつまらない写真を撮ってしまうことを避けるためです。フィルムの全コマ、本気でよろしく!
はじめてのアナログ写真ワークショップ終了。
— 東京オルタナ写真部 Tokyo Alternative Photography (@TokyoAltPhoto) August 2, 2020
初の「写真を教えないワークショップ」の試みでしたが、撮影実習の結果には、それぞれの作家性が見事に現れていました。みんな本当に初めて?こんなの見たことがないです。素晴らしい、大成功!また開催します! pic.twitter.com/S9vSdgwe4C
この無茶ぶりにも思える撮影実習ですが、驚くような結果になりました。
撮影した写真を全部、L版サイズにプリントしてみましたが、どの写真も面白くてはずれなし!そして、それぞれの人の個性が見事に現れていました。いやこれは、個性というより、作家性と言ったほうが適切だと思います。
こんなことができるなんて!と、参加者もこっちもびっくり。これまで多くのワークショップをやってきましたが、このように全員が作品になるような写真を撮ったことは、さすがにありませんでした。
このなにも教えないワークショップ、ほんとうに成功でした。
「正しい写真」という思い込み
写真の知識を得ることは「正しい写真」という思い込みを作り出してしまうことがあります。しかしそんな正しい写真はどこにも存在しません。
ですから、まずは「写真とはこういうもの」という思い込みを置いて、自由に発想していくことで、自分の作品のイメージを作り上げていくことができるのだろうと思います。
これからもわたしたちのワークショップが、写真を始めるひとに、イメージの旅へと自由に踏み出すきっかけになれば、とても嬉しく思います。
開催予定のワークショップは「現在募集中のワークショップ」のページをごらんください。
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東京パイロについてより詳しい解説は次のページ「オリジナルフィルム現像液 |東京パイロ TOKYO PYRO」をご覧ください。