デジタルネガティブ・ワークショップ

先日開催したデジタルネガティブ・ワークショップでは、サイアノタイプの伝統的処方のデータを取りました。

サイアノタイプなどの古典的な写真技法は紫外線付近の光にしか感光しないため、ネガフィルムを感光化した紙に密着させてプリントする方法が一般的です。その密着プリント用のネガフィルムをインクジェットプリンターで出力したものがデジタルネガティブです。

プリントしたい画像の階調を反転してデジタルネガ用フィルム(ピクトリコTPS100)に出力すればデジタルネガティブは完成です。って、それはそうだけど、そんなに簡単な話でもないのです。

狙い通りのきれいな階調を再現しようとするなら、データの調整が必要になります。デジタルネガティブ・ワークショップでは、そのデータ調整を実地で行います。

デジタルネガティブとは言え、データを取る方法は基本的にアナログ写真と全く同じです。基本のステップは3つ。

  1. 黒を決める。
  2. 白を決める。
  3. 中間のトーンを調整。完成!

そしてこの方法は、サイアノタイプに限らず、他のすべてのプリント技法に汎用性があります。一般的な古典技法(オルタナティブプロセス)の場合、黒は露光時間(露光量)で決定し、白はデジタルネガティブの最大濃度で決定します。そして中間のトーンはトーンカーブ(あるいはカラープロファイル)で調整します。

サイアノタイプの処方による違い

 
今回使った感光液は、サイアノタイプの伝統的処方(Bostick & Sullivanのキット)。そして紙はハーネミューレ・ジャーマンエッチングでした。これらのテストは、私にとっても初めてでした。特にサイアノタイプはこれまでMike Ware氏の新処方を使ってきたので、伝統的処方のデータを取るのは初めてのことでした。
 
サイアノタイプ感光液の作り方/ Cyanotype Sensitizer Mixing
世界最古の写真技法のひとつサイアノタイプ。 サイアノタイプの感光液の新しい処方の調合方法を紹介。サイアノタイプ・ワークショップのために感光液を調合したので、手順の解説をします。イギリスの写真家Mike Wareの新しいサイアノタイプ処方は、古典的なレシピを現代的なオルタナティブ写真制作のために改良したものです。感光液の安定性、コントラスト、塗りやすさなどが改善されています。調合は簡単ですが、多少コツもあるので写真付きでプロセスを紹介します。薬品には毒性があるため、必ず安全対策を行ってください。■必要な...
 
サイアノタイプの新処方は通常6〜7分程度の露光時間なので、今回もワークショップ内で説明しながらテストをするつもりでした。しかし伝統処方では露光時間は、なんと50〜60分になりました!ワークショップの時間内でプリントできるのは1回きり!
 
次にネガ濃度でハイライトを決めますが、これまでよりはるかに薄い濃度になりました。
ハーフトーンの調整も、従来のカーブとは全く違ったものになりました。
 
伝統的処方と新処方を比べてみるとこんな感じです。
まず処方の違い。
 
サイアノタイプ伝統的処方
  • クエン酸鉄アンモニウム
  • 赤血塩
サイアノタイプ新処方(Mike Ware氏による
  • シュウ酸鉄アンモニウム
  • 赤血塩
  • (重クロム酸アンモニウム)
  • (界面活性剤)
 
新処方に入っている重クロム酸塩と界面活性剤は添加物で、それぞれ保存料と改善剤です。なくても大丈夫です。ですから、実質的にクエン酸鉄アンモニウムかシュウ酸鉄アンモニウムかの違いだけ。だけど結果は大きく違っています。
 
  • 感度
    • 伝統的処方は新処方に比べて3ストップ程度感度が低い。つまり露光量が8倍必要。
  • コントラスト
    • 伝統的処方のほうがコントラストが高い。(つまり伝統的処方のほうがネガのコントラストは低くなる。)
    • シャドウ部はそれほど違いはない。ハイライト部は新処方は白く抜けるが、伝統的処方は黄色く染まる。
  • 画像の安定性
    • 伝統的処方は新処方に比べて、画像の安定性が低い。紙に定着しにくく水洗とともに画像が流出する。水洗時間を長くすると、シャドウ部の濃度が低下し、ハイライト部のトーンが消失する。
  • 感光液の扱い方
    • 伝統的処方
      • 2液に分けて保存できる。使用時に混ぜ合わせるので手軽に常に同じ状態で使用できる。
    • 新処方
      • 1液で保存。調合からしばらくは不純物が析出するので使用前に必ずろ過が必要。時間が経つと濃度や色が変化する。感光液はやや不安定だが、1年以上は使用可能。

サイアノタイプの伝統処方と新処方には、だいたい以上のような違いがあることがわかりました。

どちらがいいか?それは何とも言えません。それぞれ長所と短所があります。画の特徴から言うと、新処方はスッキリとしたハイライトできれいに画が出ますが、伝統的処方の着色した中間〜ハイライトも味があります。どちらを使うかは好みでいいと思います。

それぞれの注意点は、伝統処方は水洗しすぎないことと表面をこすらないこと。新処方は不純物が析出していると画が流れるので必ずろ過することです。

 

デジタルネガティブ調整のコツ

 
デジタルネガティブのデータ調整のコツは、
  • あせらず落ち着いて。
  • 近道しようとしない。
  • こだわらないこと!
この3つです。とくに、1日に3回より多い回数のテストは禁止!ストレス多く、得るものが少なくなります。うまくいかない時は、続きは明日にしましょう!明日、明日!

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