銀塩写真を始めたい人へ:モノクロフィルム編 # 9 Film Photography Project
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最新更新日:2021年7月2日
もしかすると、いまどき銀塩写真を始めたいひとがいないとも限らない。
万が一、そんな人がいた場合に備えて最近の銀塩写真情報をぼちぼちとまとめていきます。カメラ編に続きフィルム編。それもモノクロフィルム。風前のともし火と言われはや10年余。名を変え、国を変え、しぶとく生き続けています。
I'm still STANDING!!
モノクロフィルム、まだ買えます。買えますとも。
今回は、フィルム写真への愛をスーパーポジティブに宣言するインターネットラジオ局"フィルム・フォトグラフィ・プロジェクト" !
そもそもカラーフィルムが普及した時点で、モノクロ(白黒)フィルムはまだ必要なのか?という議論もあったのではないかと思います。しかし、白黒フィルムはカラー時代を生き抜きました!それは、カラーフィルムをモノクロ画像にするよりも、最初からモノクロフィルムで撮影した方がだんぜんきれいだったからです。
デジタル時代にも同じことが言えるとは思うのですが、デジカメにフィルムを入れて撮影するわけにいかないので、フィルムカメラが衰退するとともにフィルム生産も大幅縮小されました。しかしモノクロフィルムはこのまま無くなるのか、と思いきや、国を変え、会社を変え、工場を変えて、多くのモノクロフィルムの生産はまだ続いています。
今回紹介するのはフィルム・フォトグラフィ・プロジェクト(FPP)。
FPPは2009年に始まったインターネットラジオで、フィルム写真に関するトピックに特化した番組を配信しています。FPPのサイトは読むコンテンツやギャラリーも充実しており、音声番組付きのブログという感じです。さらにTwitter、facebook、YouTube、Flickrのアカウントでも精力的に情報発信しています。いつ見てもたくさんの仲間と絶賛盛り上がっていて、かたやひとりでブログを書いている私はどうしてこうなったとか、そんなことはこの際どうでもいいです。
「フィルム写真はシンプルに楽しい」と宣言するFPPは、すべてオープンにして共有しよう!ほらやってみようよ!と、非常にポジティブです。酢酸の匂いのこもる風呂場に閉じこもって写真をプリントした過去全ての日本人写真学生の青春は何だったのか。そしてまた「正しい写真」を崇拝する閉鎖的なコミュニティを作りがちなわれわれ日本写真界からは何と遠いことか。「もうええんやで、がんばらんでええんやで」と真っ暗な風呂場にいるかつての自分に声をかけてあげたい。(どうでもいい)
そんなFPPですが、カメラやフィルムを販売するオンライン・ショップもあります。ただし、フラッシュバルブや620フィルムカメラなど、他では見かけないものばかり売っています。とはいえ古いカメラはオークションを探せば簡単に手に入ります。FPPがすごいのはフィルム。フィルムも古い!1972年に期限が切れた白黒フィルムとか、おーい、それふつうに売るか。コレクターズアイテムじゃないのか。写るのか、あ、写る。
余談ですが、実際のところ白黒写真の使用期限はそれほど気にすることはありません。高温多湿のところに長期間放置されたものは化学的な劣化がありますが、冷蔵庫や冷凍庫に保存されていたものはまず大丈夫です。そういうフィルムの劣化の原因は宇宙線です。劣化というより宇宙線で露光してしまうんですね。しかしニュートリノの検出にでも使うのでなければ全然問題なく使用できます。
参考記事:「光よりも速く!:アナログ写真の逆襲《原子核乾板》」東京オルタナ写真部
あちこちで変なフィルムを手に入れてきては、手で巻いて販売しているFPP。
今回はそんなFPPのオリジナル(?)フィルムを紹介します。限定版が多いので、ここではいくつかをピックアップして紹介します。他にどんなフィルムがあるか、ぜひFPPのオンラインストアをチェックしてみてください。
いまでは手に入りにくなった110サイズや620サイズのフィルムも売っています。
もちろん、日本からも買えます。
ウクライナのメーカー(おそらくSVEMA)製の航空写真用フィルムを手巻きしたシリーズ。名前はウクライナの森をイメージしたそうです。
まず何と言ってもオススメはこのフィルム。
作例?おう、作例見ていただきましょう!
ポール・マッカートニーのプロモーション・ヴィデオ。'Early Days'。とても美しいモノクロ・トーン。 このPVは「Double X 5222」というKodakの映画用白黒フィルムで撮影されています。そう、これ。このフィルム。映画撮影用のフィルムを写真カメラで使えるように、FPPが手巻きで35mmパトローネに巻いて販売しています。
ちなみにこのPVを撮影したカメラマンはEvan Prosofskyです。
もうひとつこのフィルムの作例をいっときましょうか。
『007 カジノ・ロワイヤル』オープニングシーン。
映画のタイトルや合成用のハイコントラストフィルム。ASA25。データシート(PDF)。
フィルム感度 ASA6。
デュープ用ポジフィルムとのこと。おそらく映写フィルム用だと思います。
感度ASA6。微粒子。
FPPでは、映画用カラーフィルムの詰め替えも販売しています。
SVEMA。ス…スヴェーマ?知らん。
FPPは「かの有名なウクライナのショーストカ・ケミカル・プラントから直送だよ!」と書いていますが、ショーストカ?すみません。寡聞にして存じません。
ウィキペディアによると、ショーストカ・ケミカル・プラントは創業1930年。旧ソヴィエトの映画フィルム工場として始まったようです。「スヴェーマ」は旧社名にしてブランド名。2004年にいちど倒産しましたが、現在はウクライナ政府がテコ入れして復活しているようです。東ドイツ解体にともない、旧アグファ(ORWO)の技術者が移入したというのは気になるところです。もしかしてこれ、いいフィルムなんじゃないか。機会があればテストしてみたいですね。
ポリパンF…これも知らん。しかしどういうわけかMassive Dev Chartには詳細な現像時間のデータが掲載されています。
Massive Dev Chart:PolyPan F 現像時間
お?このフィルムも上記のSVEMAと同じショーストカ・ケミカル・プラント製なんですね!ショーストカなら知ってるぞ!さっき聞いた!
そしてこれも映画の上映用フィルムのようです。
ともかくこのフィルム、アンチハレーション層がほとんどないため、光がにじむそうです。おお。最近はどのモノクロフィルムも性能が「良くなった」ため、光がにじまなくなりました。これは貴重なフィルムですね。モダンレンズで撮るよりも、クラシックレンズや古いシネレンズとの相性が良さそうです。
ウクライナのショーストカ・ケミカル・プラント。うん、覚えた!
ORWO(オルヴォ)は、かつての東ドイツの映画用フィルムメーカーです。現在も映画用フィルムを製造しており、FPPではそれを手巻きで詰め替えて販売しています。
こちらもソビエト時代に創業した由緒あるフィルムメーカーだそうです。
赤いよ!フィルム赤いよ!
FPPはたくさんの限定版フィルムを
販売しているのですが、なかでもこれは超レアものとのこと。
なんせ、ふつうに現像したらポジ画像ができるとか。マイクロフィルムなので超細密描写です。感度:ASA0.6!
名無しのフィルムです。
警備会社が持っていた監視用フィルムがたくさん手に入ったから売るよー。ということらしいです。監視用の白黒フィルムってどういう使い方をしていたのか、そっちのほうが気になりますが、中身を製造したのはfomaじゃないかということです。
フォマ、感度200とくれば…きっとあれですよ、あれ。
期限切れという概念がおかしくなりそうなレベルの期限切れフィルム。平気で売ってます!
1978年、1972年、1960年!!
君らはいったい何のつもりか。ワインか。
最近、健康診断を受けたのですが、もはやレントゲン撮影もデジタルになっていました。となると、これまでレントゲン写真に使っていたフィルムがだぶついているはず。売るか。やっぱり売るか、FPP。
レントゲン写真用フィルムです。しかも手作業でカットして巻いてブローニサイズも用意しました。レントゲン写真用フィルムとはいえ、X線光源でなければ骸骨は写りません。可視光の光源だとわりとふつうに写ります。
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コーヒー現像液で現像したとか。 |
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意外ときれいに写る。 |
"Blue"と"Green"の2タイプあるのは、感色性の違いのようなのですが、詳しいことは不明です。
サイズは120サイズのほかは4x5と8x10があります。特に8x10はお買い得。安いシートフィルムが欲しい人はいかがでしょうか。
銀塩写真の最近の情報をまとめるシリーズ、モノクロフィルム編。
前世紀の遺物。風前のともし火。なんとでも言え。どっこい生きてます。
次回は、LOMOGRAPHY他。
いま買える写真用白黒フィルムの最新リストを公開しています!
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開催予定のワークショップは「現在募集中のワークショップ」のページをごらんください。
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