銀塩モノクロ写真のフィルム現像液を紹介するシリーズ2回目は、世界最古の市販現像液ロジナール。
クリエイティブの視点からは、フィルム現像は銀塩写真の全プロセスの中で最も重要なプロセスです。詳しくは前回の内容を参照していただくとして、今回はこれを外しては現像液は語れない、生ける伝説、ロジナール
ちなみにロジナールは、東京オルタナ写真部のワークショップのレギュラー現像液です。私たちがワークショップでこの現像液を使う理由は、画がかっこいいから!みもふたもない理由!
それと、ロジナールは様々な現像テクニックによく反応する現像液なので、フィルム現像の画作りを理解するのに最適だからです。
ロジナール現像液:東京オルタナ写真部 アナログ写真ワークショップ参加者の作例
フィルム:ADOX CHS100II 現像液:Rodinal ロジナール ©古屋太陽
超現実的なまでに克明な質感描写!まさにロジナールの画!
この作品を見れば誰にでもわかることだと思いますが、もう一度言っときますね。銀塩白黒写真のトーンを決めるのはフィルム現像です
ロジナールの最大の特徴は何と言っても高いシャープネス。最もシャープな現像液の1つです。いや全ての現像液の中でいちばんシャープ…と言ってもいいかもしれない。それくらいシャープ。
これはロジナールには、銀粒子を溶かして画をボケされる薬品が入っていないからです。そんなダメな薬品が入っている現像液があるのかと思うかもしれませんが、多くの現像液には入っています。もちろんそれはそれで良い働きをするからなのですが。ともあれロジナールが作る銀粒子は、とてもきれいでクリアな形をしています。そしてロジナールのもう一つの特徴は美しいグラデーション。このグラデーションと高いシャープネスのせいで、キラキラとした印象の画を作ることができます。
また高希釈や低温度で現像できるのも大きな特徴です。希釈率、温度、現像時間を調整することで、様々な作画効果が得られます
ただ、ロジナールはなめらかな表現はやや苦手です。粒子はくっきりしているので、ぜんぜん微粒子じゃないですよ!なめらかな表現が欲しい時はシュプールHRXなどの微粒子現像液を使うことをおすすめします。1930年代に35mmフィルムなどの「小型」フィルムが登場し、ロジナールの人気はいったん下火になります。それは初期の35mmフィルムは粒状性が悪く、ロジナールで現像すると画質が悪くなったからです。しかしフィルムが改良されるに従い、ロジナール人気は復活してきました。現代的な設計の白黒フィルムとロジナールの組み合わせは素晴らしいものがあります。
現像液ロジナールがドイツのアグファ社から発売されたのは1891年。アグファ社の最初の製品にして看板商品になるまで大ヒットしました。以来、世紀の境を2度越えて、今日なお販売され続けている現像液です。もちろん市販現像液としては世界最古。写真史の大半を見届けてきた現像液です。

これだけ長い歴史のある現像液ですから、バリエーションも様々あります。しかし構成している基本の薬品は3つ。パラミノフェノール、水酸化カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム。これらの薬品がロジナールのキャラクターを決定しています。ちなみに以下の現像液は全て「ロジナール」です。

Rodinal(ロジナール)
Adonal(アドナール)
APH09
R09
これらは本当にほぼ同じ現像液です。現像結果は完全に同じ。ではなぜこんな種類があるのかというと、第2次世界大戦後のドイツの歴史と少し関係があります。ドイツは降伏後、連合国軍により占領統治されましたが、ご存知のように当時のドイツは非常に高い科学技術を持っていました。ドイツの技術が欲しい連合国側はドイツを占領する際に、めぼしい企業や工場を真っ先に接収していきました。先進的な技術を持つアグファもそうやって接収された企業のひとつです。
その後、連合国側は西側諸国とソ連とが対立し、それにともなってドイツは東西に分かれます。アグファの工場はこの西側にも東側にもありました。東西分裂後もそれぞれの工場ではロジナールを作り続けたのですが、時代ごとに手に入りやすい薬品などを替えたためにレシピに微妙な差が生まれることになりました。その名残でいまも名前の違う「ロジナール」が複数存在するわけです。
もうひとつは命名権の問題もあります。レシピは公開されていても商標には権利が残っているので、ロジナールを販売したい業者は製品名を変える必要がありました。その逆に、製品名は「ロジナール」なのに、全然ロジナールらしくない現像液が販売されていたこともあります。その当時は、私は仕方なく自分で古いレシピに従って調合していました。しかし現在販売されている製品は伝統的なロジナールの画に戻っています。
 

ロジナール使用上の注意点

薬品を飽和状態まで溶かしているため、冷蔵保存すると保存液中に結晶が出てしまいます。常温に戻せば大丈夫です。保存液は常温でも数年は保ちますので冷蔵する必要はありません。
常温でも保存液に結晶ができることがありますが問題ありません。結晶分が処理液に入らないようにして使用してください。
いちど希釈した処理液はすぐに使い切ってください。保存はできません。
 

 

ロジナールについてはSilversaltが公開している下記ページに詳しく解説されています。

[bcd url="http://rodinal.jp/"]

 

 

ロジナール詳細および販売ページ / Silversalt

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フィルム現像液の選び方」はまだ続きます。
引き続き、高感度現像液、微粒子現像液、パイロ系など紹介していきます。