光よりも速く!:アナログ写真の逆襲《原子核乾板》

ニュートリノの軌跡
降り注ぐ宇宙線…全てを通過するニュートリノ…

これは、世界を震撼させたローテク写真術の物語である。


素粒子物理学の世界最先端に挑むのは、日本のアナログ写真術なのだ。(いや本当だってば)

 


 *

昨年は本当にいろいろなニュースがありましたが、だいとうが写真家的にもっとも衝撃を受けたニュースはこれ。

「光より速いニュートリノ」計測 国際研究グループ発表 

名古屋大や神戸大、宇都宮大などが参加する国際共同研究グループOPERAは23日、素粒子の一つニュートリノが、光より速く飛ぶことを示す実験結果を発表した。結果が正しければ、「光速より速いものはない」とするアインシュタインの特殊相対性理論など現代物理学の枠組みは大きく揺らぐことになる。
研究グループは、スイス・ジュネーブ郊外にある欧州合同原子核研究機関(CERN)の加速器から打ち出されたミュー型と呼ばれるニュートリノが、約730キロ離れたイタリアのグランサッソ国立研究所の地下検出器に到着するまでの距離と時間を、全地球測位システム(GPS)を使って3年間・1万5千回以上、精密に計測した。
その結果、ニュートリノは光よりも1億分の6秒ほど早く到達し、速度を計算すると真空中の光速(秒速約30万キロ)を秒速7.5キロ(0.0025%)上回っていた。
(asahi.com 2011年9月23日配信)

このニュースの衝撃はすごかった。
タイムマシンいつできるか?など飛躍しまくりの記事も大量に書かれて全く世界を震撼させました。

…え?
写真と関係ない?

いやいや。
写真と関係あるんです。
このニュースのど真ん中に、大時代的で古くさい写真術が関係しているんです。

この国際研究プロジェクトOPERAはそもそも、ある種類のニュートリノの観測のためのもので、速度計測が目的だったわけじゃないんです。

だけどたまたまニュートリノの速度が光より速いという観測結果が出てしまい、公表したら今回の大騒ぎになったということのようです。

ところでニュートリノ観測というと、ノーベル賞学者小柴昌俊さんのスーパーカミオカンデが有名ですね。だけど、スーパーカミオカンデでは、OPERAが検出しようとしているニュートリノは観測できないんだそうです。

では、OPERAはどうやってそのニュートリノを検出するのか。

なんと、

写真のフィルムをつかうんです!
ニュートリノ、写ルンです!

いやしかも、正確に言うとフィルムじゃないんです。
OPERAで実際に使われているのは「乾板」と言って、ガラス等に感光乳剤を塗っただけのものです。

乾板ですよ。
それはつまり、フィルムがまだ発明されていなかった
明治時代に使われていた写真技術そのまんま!

写真乾板(Wikipedia)

《明治時代の写真乾板の広告》

写真乾板

写真乾板

素粒子実験に歴史的に使用されてきた写真乾板は『原子核乾板』と呼ばれているそうですが、本当に普通の写真フィルムと同じ仕組みです。

ただ、問題点がひとつあって、宇宙からの粒子、つまり宇宙線というのは、あらゆる場所に常に降り注いでいるらしいんです。ですから、実験に使う前にも乾板は宇宙線にさらされているので、どれが実験結果でどれがノイズなのか区別がつかない。

そこで今回のOPERAプロジェクトのためにFUJIFILMと名古屋大学が開発した技術、それが世界初の『原子核乾板のリフレッシュ技術』!

どんなハイテクかと思いきや、これもすごい。
高温多湿の場所に乾板を放置!それだけ!

つまりですね、
写真フィルムを使用したことのあるカメラマンの方ならすぐにお分かりいただけると思いますが、フィルムというのは撮影後すぐに現像しないと、だんだん像が薄くなっていってしまいますね。ですから、撮影後にすぐに現像できないときは冷蔵庫に入れたり冷凍したりします。

原子核乾板のリフレッシュ技術は、それを逆にしただけ。高温多湿の環境に放置して、実験前に乾板にできたノイズを退色させてしまうんです。

ああ、なんてアナログ感満点なんでしょうか!

(だいとうは過去に撮影済みの未現像フィルムを抱えたまま、2回、陸路で赤道を越えたことがあります。無茶をしたものですね。)

そんなわけで、リフレッシュチェンバーを地下に設置し、そこで大量の原子核乾板がリフレッシュされて、実験設備のあるイタリアへと送られます。

この作業の様子を撮影した映像が公開されています。

もういちど言いますよ。

これは世界が注目する実験のために開発された、世界初の技術です。

この世界中が注目する実験の核を担う作業にあたるのは…
日本が世界に誇る、パートのおばちゃん!
当然、世間話をしながら作業!

0分20秒~1分10秒付近のおばちゃんたちの仕事ぶりに注目!いったい、なんの話をしているんだ!

世界の最先端物理学を支えているのは、ローテク・アナログ写真とパートのおばちゃんだったんですね。

いやー、いい話だ。

(後日記)
ニュートリノ超光速ニュース、誤報でしたね!
誤報というか、実験精度の問題でした。
でも原子核乾板は本当ですから!

 

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